目次
  1. 01|成長ホルモンは、眠っている間に何をしているのか。
  2. 02|脳には、成長ホルモンの分泌を調節する2つの仕組みがある。
  3. 03|深い睡眠とレム睡眠では、脳の働き方が違っていた。
  4. 04|意外な発見。成長ホルモンは、脳を目覚めさせる働きも持っていた。
  5. 05|筋肉を育てたい人ほど、睡眠を軽視してはいけない。

SLEEP, GROWTH HORMONE & THE BRAIN

筋肉を成長させたいなら、しっかり眠る。

トレーニングをしている人なら、一度は耳にしたことがあるだろう。

睡眠中には成長ホルモンが分泌され、身体の成長や組織の維持、代謝に関わっている。

しかし、ここでひとつ疑問が生まれる。

なぜ、眠ると成長ホルモンが分泌されるのだろうか。

そして、成長ホルモンは身体に働きかけるだけで、脳には何もしていないのだろうか。

2025年、カリフォルニア大学バークレー校などの研究チームが、学術誌『Cell』で興味深い研究を発表した。

研究チームは、睡眠中に成長ホルモンの分泌を調節する脳の神経回路を、マウスを用いて詳しく調べた。

そこで明らかになったのは、睡眠と成長ホルモンの関係が一方通行ではないということだった。

睡眠が成長ホルモンの分泌を促すだけでなく、成長ホルモンも脳に働きかけ、覚醒を調節していた。

この研究は2026年10月にも改めて紹介され、睡眠と身体の回復を考えるうえで注目を集めた。

私たちが眠っている間、脳の中では何が起きているのだろうか。


01|成長ホルモンは、眠っている間に何をしているのか。

WHY GROWTH HORMONE MATTERS.

成長ホルモンという名前から、子どもの身長を伸ばすホルモンという印象を持つ人も多いかもしれない。

しかし、その役割は成長期だけに限らない。

成人になってからも分泌され、身体のさまざまな働きに関係している。

例えば、タンパク質の代謝や組織の維持。

脂質の利用や糖代謝。

そして、骨や筋肉などの健康を支える働きだ。

成長ホルモンは脳の下垂体から分泌され、その分泌量は一定ではない。

一日のなかで増減を繰り返し、特に睡眠との間には密接な関係がある。

人間では、入眠後の最初の深いノンレム睡眠に伴って、成長ホルモンの大きな分泌が起こりやすいことが知られている。

ただし、成長ホルモンが分泌されれば、それだけで筋肉が大きくなるわけではない。

筋肥大には、筋力トレーニングによる刺激、十分な栄養、回復など、複数の要素が関わっている。

また、睡眠中の成長ホルモン分泌だけで、身体の回復をすべて説明できるわけでもない。

それでも、睡眠と成長ホルモンの関係は、身体の成長や代謝を理解するうえで重要だ。

今回の研究が注目したのは、その分泌を脳がどのように調節しているかという仕組みだった。

02|脳には、成長ホルモンの分泌を調節する2つの仕組みがある。

THE BRAIN’S HORMONE CONTROL SYSTEM.

成長ホルモンの分泌には、脳の視床下部が重要な役割を果たしている。

特に関係しているのが、2種類のホルモンだ。

ひとつは、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)。

これは下垂体に働きかけ、成長ホルモンの分泌を促す。

もうひとつは、ソマトスタチン(SST)。

こちらは、成長ホルモンの分泌を抑える働きを持つ。

つまり、脳には分泌を促す仕組みと、抑える仕組みが存在している。

今回の研究チームは、マウスの脳内でこれらのホルモンに関係する神経細胞の活動を記録し、睡眠段階によってどのように変化するのかを調べた。

さらに、特定の神経細胞を光によって操作する技術などを用い、それぞれの回路の働きを検証した。

研究で明らかになったのは、ソマトスタチンをつくる神経細胞が、脳内の場所によって異なる経路から成長ホルモンの分泌を抑えていることだった。

視床下部の弓状核にある神経細胞は、近くのGHRH神経細胞を抑えることで分泌を調節する。

一方、脳室周囲の神経細胞は、別の経路を通じて成長ホルモンの分泌を抑える。

成長ホルモンの分泌は、単純なひとつのスイッチで決まっているわけではない。

複数の神経回路が協調しながら、細かく調節していることが示された。

03|深い睡眠とレム睡眠では、脳の働き方が違っていた。

DIFFERENT SLEEP STAGES, DIFFERENT SIGNALS.

睡眠は、一晩中同じ状態が続いているわけではない。

大きく分けると、ノンレム睡眠とレム睡眠があり、それぞれ脳や身体の活動状態が異なる。

ノンレム睡眠には、浅い段階から深い段階までがある。

一方、レム睡眠は、脳の活動が比較的活発で、夢を見ることが多い睡眠段階として知られている。

今回のマウス研究では、どちらの睡眠段階でも成長ホルモンの分泌が増えることが確認された。

ただし、その仕組みには違いがあった。

ノンレム睡眠では、GHRHに関係する神経細胞の活動が適度に増加し、ソマトスタチンに関係する神経細胞の活動が低下した。

成長ホルモンの分泌を促す働きが強まり、抑える働きが弱まる。

この組み合わせによって、成長ホルモンが分泌されやすくなると考えられる。

一方、レム睡眠では、GHRHとソマトスタチンに関係する神経活動の両方に大きな変化が見られた。

研究チームは、異なる神経回路の活動が組み合わさることで、レム睡眠中にも成長ホルモンの分泌が促される仕組みを示した。

ここで重要なのは、今回の結果がマウスを対象としていることだ。

人間の成長ホルモン分泌は、特に深いノンレム睡眠との関係が強く知られている。

そのため、マウスで確認されたレム睡眠中の仕組みを、そのまま人間に当てはめることはできない。

それでも、睡眠の段階ごとに異なる神経活動がホルモン分泌を調節しているという発見は、睡眠の仕組みを理解するうえで重要な手がかりになる。

04|意外な発見。成長ホルモンは、脳を目覚めさせる働きも持っていた。

A TWO-WAY CONNECTION BETWEEN SLEEP AND WAKEFULNESS.

今回の研究で特に興味深いのが、成長ホルモンと覚醒の関係だ。

これまで、睡眠が成長ホルモンの分泌を促すことはよく知られていた。

しかし、研究チームはその反対方向の働きも確認した。

成長ホルモンが、脳幹にある青斑核という領域の神経細胞に作用していたのだ。

青斑核は、覚醒や注意などに関係する脳の領域として知られている。

今回の研究では、成長ホルモンによって青斑核の神経細胞が興奮しやすくなり、覚醒が促されることが示された。

つまり、睡眠と成長ホルモンは、一方が他方を動かすだけの関係ではなかった。

睡眠中には、脳の神経回路によって成長ホルモンの分泌が促される。

そして、成長ホルモンは脳の覚醒に関係する神経回路にも働きかける。

このような双方向の調節は、フィードバックと呼ばれる。

身体の内部環境を一定の範囲に保つための仕組みのひとつだ。

ただし、この結果を「成長ホルモンが増えると夜中に目が覚める」と単純に解釈することはできない。

人間の中途覚醒には、ストレス、睡眠環境、呼吸の問題、加齢、生活習慣など、さまざまな要因が関係している。

今回の研究だけで、人間の中途覚醒の原因を成長ホルモンに結びつけることはできない。

また、成長ホルモンの分泌を人為的に増やせば、睡眠や身体の回復が改善するという意味でもない。

研究の重要性は、睡眠とホルモンの調節が、脳のなかで相互につながっていることを具体的に示した点にある。

睡眠は、身体を休ませるだけの時間ではない。脳とホルモンが絶えず情報をやり取りする、活発な生理活動でもある。

05|筋肉を育てたい人ほど、睡眠を軽視してはいけない。

SLEEP IS PART OF RECOVERY.

筋力トレーニングを続けている人にとって、睡眠は回復を考えるうえで欠かせない要素だ。

筋肉に刺激を与えること。

必要な栄養を摂ること。

そして、十分に回復すること。

この3つは、どれかひとつだけで完結するものではない。

今回の研究は、睡眠中の成長ホルモン分泌が、複数の神経回路によって細かく調節されていることを示した。

さらに、成長ホルモンが覚醒を調節する回路にも働きかけるという、新たな仕組みを明らかにした。

ただし、今回の研究では、人間が何時間眠れば筋肉が増えるのか、深い睡眠を何分増やせば回復が早まるのか、といったことは検証していない。

マウスの神経回路を調べた基礎研究であり、筋肥大や運動パフォーマンスへの直接的な効果を示したものではない。

それでも、睡眠を単なる休息ではなく、身体の働きを調節する重要な時間として捉える意義は大きい。

日常生活で意識したいのは、特定のホルモンを増やすことよりも、安定した睡眠習慣をつくることだ。

例えば、起床時間をできるだけ一定にする。

日中に適度な運動を取り入れる。

就寝前のカフェインや飲酒、強い光など、眠りを妨げる要因を見直す。

成人では一般に7〜9時間程度の睡眠がひとつの目安とされるが、必要な睡眠時間には個人差がある。

また、睡眠時間だけでなく、日中の眠気や疲労感、生活への影響にも目を向けたい。

十分な時間眠っていても、強いいびきや呼吸の停止、日中の強い眠気などがある場合は、睡眠障害が隠れている可能性もある。

そうした場合には、生活習慣の工夫だけで解決しようとせず、医療機関で相談することが重要になる。

筋肉を鍛えることは、自分の意思でできる。

食事を選ぶことも、自分の意思でできる。

しかし、眠っている間の脳やホルモンの働きは、意識して直接操作できるものではない。

だからこそ、身体が自然に眠れる環境と習慣を整えることに意味がある。

身体を変える努力は、起きている時間だけで完結しない。眠っている間にも、脳と身体は働き続けている。

REFERENCES|参考文献・出典

  1. Ding X, Hwang F-J, Silverman D, et al. (2025).

    Neuroendocrine circuit for sleep-dependent growth hormone release.

    Cell, 188(18), 4968–4979.e12.

    Published: September 4, 2025.

    DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.05.039

PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40562026/

  1. University of California, Berkeley. (2025).

    Sleep strengthens muscle and bone by boosting growth hormone levels. UC Berkeley researchers discover how.

    Published: September 8, 2025.

    https://biology.berkeley.edu/node/355

  2. University of California, Berkeley / ScienceDaily. (2026).

    Scientists discover how deep sleep builds muscle, burns fat, and boosts the brain.

    Published: October 17, 2026.

    https://www.sciencedaily.com/releases/2026/10/261016081140.htm

本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断・治療に代わるものではありません。研究結果には限界や個人差があります。編集方針・訂正方針

ABOUT THE AUTHOR

岸本 淳史

WELLNESS EDIT JAPAN 代表・編集責任者 / NSCA-CPT

株式会社Karada Works代表取締役。NSCA認定パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)。2017年よりパーソナルジム運営に携わり、運動指導、パーソナルジム・整骨院の経営支援、ドライヘッドスパ専門店La HEADの経営など、ウェルネス分野の事業に従事。

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