目次
  1. 01|25万人の研究が示した、運動と脳の関係。
  2. 02|筋トレで「記憶力」は変わるのか。
  3. 03|判断力や集中力にも、変化は起こるのか。
  4. 04|脳のための筋トレは、週何回がいいのか。
  5. 05|40代から鍛えたいのは、未来の自分だ。
  6. REFERENCES

STRENGTH TRAINING & BRAIN HEALTH

筋肉を鍛える理由は、人それぞれだ。

引き締まった身体を手に入れたい。年齢を重ねても強くありたい。健康的な生活を続けたい。

しかし、筋力トレーニングの価値は、目に見える身体の変化だけではないかもしれない。

近年、筋トレが記憶力や判断力、情報処理など、脳の働きに与える影響が注目されている。

2025年には、25万人以上の参加者を含む研究を統合した大規模レビューが発表され、運動と認知機能の関係について新たな知見が示された。

さらに2026年には、筋力トレーニングに焦点を当てた研究結果も報告されている。

身体を鍛えることは、脳を鍛えることにもつながるのか。

最新の研究から、その可能性を読み解いていく。


01|25万人の研究が示した、運動と脳の関係。

THE EXERCISE–BRAIN CONNECTION.

2025年、スポーツ医学の専門誌『British Journal of Sports Medicine』に、大規模な研究レビューが掲載された。

研究者らは、運動と認知機能に関する133件のシステマティックレビューを統合。

対象となったのは、2,724件のランダム化比較試験、延べ258,279人の参加者だった。

分析の結果、運動は次の3つの認知機能に有意な改善をもたらしていた。

一般的な認知機能。

記憶力。

そして、計画や判断、行動の切り替えなどに関わる実行機能だ。

改善効果の大きさを示す標準化平均差は、一般的な認知機能で0.42、記憶力で0.26、実行機能で0.24だった。

これは、それぞれの能力が42%、26%、24%向上したという意味ではない。異なる研究結果を比較するための統計的な指標であり、全体として小〜中程度の改善が認められたことを示している。

重要なのは、効果が特定の運動だけに限られなかったことだ。

筋力トレーニング、有酸素運動、ヨガなど、さまざまな運動方法で認知機能への有益な影響が報告された。

ただし、この研究は運動全般を対象としており、すべての改善が筋トレだけによるものではない。

それでも、運動が身体だけでなく、脳の健康を支える可能性を示す大きな研究結果といえる。

身体を動かすことは、脳への投資でもある。

02|筋トレで「記憶力」は変わるのか。

STRENGTH BUILDS MORE THAN MUSCLE.

では、筋力トレーニングに限定すると、どのような結果が得られているのだろうか。

2026年に公表されたシステマティックレビューとメタ分析では、60歳以上を対象とした17件のランダム化比較試験、合計739人のデータが分析された。

その結果、筋力トレーニングによって、全般的な認知機能と一部の記憶機能に改善が認められた。

特に注目されたのが「ワーキングメモリ」だ。

ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する能力のこと。

例えば、会話の内容を覚えながら考える。

複数の情報を整理して判断する。

仕事の手順を頭に置きながら作業を進める。

こうした日常的な場面に関わる重要な機能だ。

今回の研究では、ワーキングメモリに対して標準化平均差0.44の改善効果が認められた。

一方で、注意力や情報処理速度、実行機能については、統計的に明確な改善が確認されなかった項目もある。

つまり、筋トレによって脳のすべての能力が一様に高まるわけではない。

また、対象者は主に高齢者であり、同じ効果が健康な40代男性にもそのまま当てはまるとは限らない。

それでも、筋力トレーニングが筋肉だけでなく、記憶に関わる働きにも影響する可能性は興味深い。

筋肉の成長だけが、トレーニングの成果ではない。

03|判断力や集中力にも、変化は起こるのか。

TRAINING THE EXECUTIVE MIND.

仕事で成果を出すために必要なのは、知識や経験だけではない。

集中力を維持する。

必要な情報を選ぶ。

状況に合わせて判断を切り替える。

こうした能力は、脳の「実行機能」と呼ばれる働きに関係している。

筋トレと実行機能の関係については、以前から研究が行われてきた。

2010年に発表されたランダム化比較試験では、65〜75歳の女性155人を対象に、12か月間の筋力トレーニングの効果を調査した。

参加者は、週1回の筋トレ、週2回の筋トレ、比較対象となるバランス運動などのグループに分けられた。

その結果、筋トレを行ったグループでは、選択的注意や情報の衝突を処理する能力を評価するテストの成績が改善した。

改善率は週1回のグループで12.6%、週2回のグループで10.9%。

比較対象のグループでは0.5%の低下がみられた。

この結果は、週1〜2回の筋トレでも、一部の認知機能に良い影響を与える可能性を示している。

ただし、2026年の別のメタ分析でも、実行機能への効果は項目によって異なり、研究の確実性には限界があると報告されている。

筋トレをすれば仕事の判断力が必ず向上する、とまではいえない。

しかし、運動習慣が将来の認知機能を考えるうえで重要な選択肢であることは、研究が積み重なるにつれて明らかになりつつある。

鍛えるべきなのは、身体だけではないのかもしれない。

04|脳のための筋トレは、週何回がいいのか。

THE OPTIMAL TRAINING ROUTINE.

脳の健康にも良い可能性があるなら、どのくらい筋トレをすればいいのだろうか。

ここで重要なのは、筋肉を大きくするためのトレーニングと、認知機能を支えるための運動では、必ずしも最適な条件が同じとは限らないことだ。

2025年の大規模レビューでは、比較的軽い運動でも認知機能への効果が認められていた。

また、2026年の筋トレ研究では、年齢や運動の頻度、時間、期間などによって、効果が異なる可能性が示された。

ただし、認知機能を最大限に高める筋トレの回数や強度について、現時点で統一された答えはない。

一般的な健康づくりでは、主要な筋群を使う筋力トレーニングを週2日以上行うことが推奨されている。

これから運動を始めるなら、週2回程度を目安に、無理のない負荷から取り組むのが現実的だろう。

スクワット、プレス、ローイングなど、複数の筋群を使う運動を組み合わせる。

そして、身体の状態に合わせて少しずつ負荷を調整する。

脳の健康を考えるなら、筋トレだけにこだわらず、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を組み合わせることも有力な選択肢になる。

2025年に公表された35件のランダム化比較試験を統合した研究では、筋トレと有酸素運動を組み合わせたプログラムが、全般的な認知機能に有益な影響を与えることが報告された。

重要なのは、特別なトレーニング方法を追い求めることよりも、無理なく続けられる習慣をつくることだ。

最も価値のあるトレーニングは、長く続けられるトレーニングだ。

05|40代から鍛えたいのは、未来の自分だ。

BUILD STRENGTH. PROTECT THE FUTURE.

40代を迎えると、身体の変化を意識する機会が増えてくる。

以前より疲れやすい。

筋肉が落ちやすくなった。

集中力が続かないと感じることもある。

こうした変化には、睡眠、ストレス、生活習慣、加齢など、さまざまな要因が関わっている。

筋力トレーニングは、そのすべてを解決する万能な方法ではない。

しかし、筋肉量や筋力を維持し、身体機能を支えるうえで重要な習慣であることは、広く認められている。

そして近年の研究は、その価値が脳の健康にも及ぶ可能性を示している。

もちろん、筋トレだけで認知症を予防できると断定することはできない。

脳の健康を守るためには、運動に加えて、十分な睡眠、バランスの良い食事、血圧や血糖の管理、社会的なつながりなども重要になる。

それでも、身体を動かすという習慣には、年齢を重ねても自分らしく生きるための可能性がある。

重いものを持ち上げるためだけではない。

見た目を変えるためだけでもない。

将来も自分の足で歩き、考え、判断し、行動するために。

筋肉は、未来の自分を支える資産になる。

そして、その価値は脳にまで広がっているのかもしれない。


REFERENCES

  1. Singh B, et al. (2025). Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis. British Journal of Sports Medicine.
    https://doi.org/10.1136/bjsports-2024-108589
  2. Wu & Huang. (2026年公表情報). A systematic review and meta-analysis of the effects of resistance exercise on cognitive function in older adults.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41503279/
  3. Liu-Ambrose T, et al. (2010). Resistance training and executive functions: a 12-month randomized controlled trial. Archives of Internal Medicine.
    https://doi.org/10.1001/archinternmed.2009.494
  4. Effects of human concurrent aerobic and resistance training on cognitive health: A systematic review with meta-analysis. (2025).
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11987655/

※本記事は研究結果に基づく健康情報の提供を目的としています。認知機能への効果には個人差があり、運動による認知症予防や仕事のパフォーマンス向上を保証するものではありません。

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WELLNESS EDIT JAPAN 編集部

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