目次
THE SCIENCE OF SPARKLING WATER & COGNITIVE FATIGUE
午後になると、集中力が落ちる。
パソコンの画面を見続けていると、判断が遅くなる。
十分に休んだつもりでも、頭がすっきりしない。
そんなとき、コーヒーやエナジードリンクに頼る人は少なくないだろう。
しかし、カフェインも糖分も含まない、身近な飲み物に新たな可能性が見つかった。
それが、無糖の強炭酸水だ。
2026年2月20日、筑波大学とアサヒ飲料の共同研究チームは、強炭酸水を飲むことで、長時間のeスポーツに伴う認知疲労が軽減される可能性を発表した。
研究では、普通の水を飲んだ場合と比較して、疲労感の増加や判断力の低下が抑えられ、ゲームを楽しむ感覚も高まったという。
研究成果は、学術誌『Computers in Human Behavior Reports』に掲載された。
もちろん、炭酸水を飲めば頭が良くなるという話ではない。
それでも、飲み物の「刺激」が脳の働きに関係するかもしれないという発見は興味深い。
炭酸水は、私たちの脳に何をもたらすのだろうか。
最新研究から、その可能性を探ってみたい。
01|3時間のゲームで、脳の疲れ方に違いが現れた。
THE THREE-HOUR EXPERIMENT.
今回の研究に参加したのは、日常的にゲームを楽しむ若年成人15人。
データの記録に問題があった1人を除き、最終的に14人が解析対象となった。
研究では、同じ参加者が別々の日に2つの条件を体験した。
ひとつは、普通の水を飲む条件。
もうひとつは、無糖の強炭酸水を飲む条件だ。
参加者は、それぞれの条件でバーチャルサッカーゲームを3時間プレーした。
飲み物は、プレー開始前に200mL、その後は1時間ごとに100mLずつ摂取し、合計500mL。
研究チームは、疲労感やゲームの楽しさに加え、認知機能、瞳孔の大きさ、心拍数、血糖値、唾液中のコルチゾールなどを測定した。
その結果、普通の水を飲んだ条件では、ゲーム開始から2時間を超えると主観的な疲労感が有意に増加した。
一方、強炭酸水を飲んだ条件では、実験開始時と比べて疲労感の有意な増加は認められなかった。
さらに、強炭酸水を飲んだ条件では、ゲームを楽しむ感覚も高まっていた。
同じようにゲームを続け、同じ量の水分を摂取している。
それでも、飲み物に炭酸が含まれるかどうかによって、疲労感に違いが生じた。
炭酸水の刺激が、長時間の知的活動に伴う疲れ方に影響する可能性が示されたのだ。
02|注目されたのは、記憶力ではなく「判断をコントロールする力」。
EXECUTIVE FUNCTION & MENTAL PERFORMANCE.
今回の研究で、特に興味深いのが認知機能への影響だ。
研究チームが調べたのは、実行機能と呼ばれる能力。
実行機能とは、注意を適切に向け、不要な情報を抑えながら、状況に応じて行動を調整する働きのことだ。
例えば、仕事中に通知が届いても、目の前の作業に集中し続ける。
複数の情報があるなかで、必要なものを選び取る。
衝動的な判断を抑え、適切な行動を選択する。
こうした場面に関係する。
研究では「フランカー課題」という認知テストを使い、周囲の情報に惑わされずに正しく反応できるかを調べた。
普通の水を飲んだ条件では、ゲームを2時間以上続けると、不要な情報の影響を抑える能力に低下が見られた。
3時間後には、一部の課題で正答率も低下していた。
一方、強炭酸水を飲んだ条件では、こうした実行機能の低下が抑えられていた。
つまり、強炭酸水を飲むことで、長時間の作業中に必要な判断力を維持しやすくなる可能性が示されたことになる。
ただし、今回の研究は記憶力や知能全体が向上することを証明したものではない。
確認されたのは、特定の認知課題における疲労に伴う機能低下の抑制だ。
この違いは、研究を正しく理解するうえで重要になる。
03|なぜ炭酸水が脳に影響するのか。鍵は「刺激」にある。
THE SENSORY STIMULATION EFFECT.
炭酸水を飲むと、舌や喉に独特の刺激を感じる。
シュワッとした感覚。
喉を通るときの刺激。
飲んだあとの爽快感。
実は、この感覚が脳の働きに関係している可能性がある。
研究チームが注目したのは、口腔や咽頭の感覚刺激を脳へ伝える神経経路だ。
炭酸による刺激は、感覚受容体を介して脳幹などに伝わり、覚醒や注意の調整に関わる神経活動へ影響する可能性が考えられている。
また、過去の研究では、炭酸水の摂取によって前頭部の脳活動に関連する指標が変化することも報告されている。
前頭前野は、注意、判断、行動のコントロールなどに関わる脳の領域だ。
今回の研究でも、脳の覚醒状態を考える手がかりとして、瞳孔の大きさが測定された。
一般に、瞳孔の大きさは明るさだけでなく、覚醒度や認知的な負荷によっても変化する。
普通の水を飲んだ条件では、長時間のゲームに伴って瞳孔が小さくなる傾向が見られた。
しかし、強炭酸水を飲んだ条件では、その変化が抑えられていた。
研究チームは、こうした結果が炭酸水による覚醒・注意機能への影響と整合すると考えている。
ただし、瞳孔の変化だけで前頭前野の活動が直接高まったと断定することはできない。
今回の研究で、炭酸刺激から脳への詳しい作用経路がすべて解明されたわけでもない。
それでも、炭酸水の価値を、単なる水分補給とは異なる視点から考えるきっかけになる。
脳に働きかける可能性があるのは、炭酸水に含まれる栄養素ではなく、その感覚刺激なのかもしれない。
04|カフェインも糖分も不要。それでも限界はある。
WHAT THE STUDY REALLY TELLS US.
今回の研究で重要なのは、使用された飲み物が無糖・カフェインなしの強炭酸水だったことだ。
研究では、心拍数、血糖値、唾液中のコルチゾールについて、普通の水と強炭酸水の条件間で明確な差は認められなかった。
つまり、観察された認知疲労の違いは、カフェインや糖分の摂取によるものではない。
この点は、日常的な飲み物の選択を考えるうえでも興味深い。
ただし、研究にはいくつかの限界がある。
まず、解析対象は14人と少なく、平均年齢は約23歳だった。
そのため、40代や50代、あるいは高齢者でも同じ効果が得られるかはわからない。
また、検証されたのは3時間のeスポーツという特定の状況だ。
デスクワークや勉強、運転などでも同様の効果があるとは、まだ言い切れない。
さらに、炭酸水と普通の水では、飲んだときの感覚が明らかに異なる。
参加者がどちらを飲んでいるか気づく可能性があるため、期待や思い込みの影響を完全には除外できない。
今回の研究は、アサヒ飲料からの受託研究費による支援も受けている。
企業との共同研究であることだけで結果が否定されるわけではないが、今後は独立した研究チームによる再現も重要になる。
そして、最も大切な点がある。
炭酸水によって、脳の老化や認知症が予防できると証明されたわけではない。
現時点で示されているのは、短時間の実験における認知疲労の軽減という可能性だ。
05|午後の集中力を守る、新しい飲み物の選択肢になるか。
A SIMPLE HABIT FOR MODERN LIFE.
午後の会議。
長時間の資料作成。
集中力が必要なデスクワーク。
仕事や生活のなかには、身体よりも頭を使う時間が数多くある。
そんなとき、気分を切り替えるために飲み物を選ぶ人も多いだろう。
コーヒーやお茶も、そのひとつだ。
一方で、夕方以降のカフェイン摂取は、人によって睡眠に影響することがある。
そこで、無糖の炭酸水という選択肢が考えられる。
糖分やカフェインを含まないため、摂取時間を考えながら飲み物を選びたい人にも取り入れやすい。
今回の研究では、3時間で合計500mLの強炭酸水が使われた。
しかし、この量が日常生活における最適な摂取量だと決まったわけではない。
また、強い炭酸が苦手な人や、胃の張り、げっぷ、胃食道逆流症などの症状がある人は、無理に飲む必要はない。
炭酸水は、睡眠や休息の代わりにもならない。
疲れが蓄積しているときには、適切な休憩、十分な睡眠、食事、運動といった基本的な生活習慣が重要だ。
それでも、今回の研究はひとつの興味深い可能性を示した。
私たちが普段何気なく選んでいる飲み物が、脳の疲れ方に影響するかもしれないということだ。
炭酸水は、単なる水分補給のための飲み物なのか。
それとも、長時間の知的活動を支える小さな習慣になり得るのか。
その答えを出すには、より大規模で長期的な研究が必要になる。
炭酸水は、脳を若返らせる魔法の飲み物ではない。
しかし、カフェインや糖分に頼らず、集中力を維持するための選択肢として、今後さらに研究される価値はありそうだ。
日常の何気ない一杯にも、まだ知られていない科学が隠れている。
REFERENCES|参考文献・出典
1. Takahashi S, et al. (2026).
Sparkling water consumption mitigates cognitive fatigue during prolonged esports play.
Computers in Human Behavior Reports, 21, 100943.
https://doi.org/10.1016/j.chbr.2026.100943
2. 筑波大学(2026年2月20日)
「強炭酸水の飲用がeスポーツによる認知疲労を軽減する」
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20260220140000.html
研究についての補足
本記事で紹介した研究は、筑波大学とアサヒ飲料の共同研究です。15人が参加し、14人のデータが最終解析に用いられました。研究結果は長時間のeスポーツという実験条件に基づくものであり、日常生活におけるあらゆる認知機能への効果や、長期的な脳の健康への効果を証明するものではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断・治療に代わるものではありません。研究結果には限界や個人差があります。編集方針・訂正方針



