目次
  1. 01|24週間、地中海食と運動を続けると何が起こるのか。
  2. 02|食生活は改善した。それでも腸内細菌は大きく変わらなかった。
  3. 03|なぜ腸内細菌は、思ったほど変わらなかったのか。
  4. 04|一方、1年間の研究では腸内細菌に変化が見られていた。
  5. 05|腸内細菌が変わらなくても、地中海食と運動には意味がある。
  6. 腸内環境は、健康習慣のすべてを映す鏡ではない。
  7. REFERENCES|参考文献・出典

MEDITERRANEAN DIET, EXERCISE & THE GUT MICROBIOME

野菜を増やす。

魚やナッツを食べる。

オリーブオイルを使い、定期的に身体を動かす。

健康的な生活習慣として知られる「地中海食」と運動。

この2つを組み合わせれば、腸内環境も良くなる。

そう考える人は少なくないだろう。

しかし、2026年9月29日に学術誌『British Journal of Nutrition』で発表された研究は、予想とは少し異なる結果を示した。

英国の研究チームが、地中海食と身体活動を組み合わせた24週間の介入を調べたところ、食生活は確かに改善していた。

それにもかかわらず、腸内細菌の多様性や構成、腸内細菌がつくる代謝物には、統計的に明確な変化が確認されなかったのだ。

一方、2024年に発表された別の研究では、地中海食と運動を中心とした1年間の生活習慣改善によって、腸内細菌に変化が認められている。

なぜ、同じような健康習慣でも結果が異なるのか。

そして、腸内細菌が変わらなければ、食生活を改善する意味はないのだろうか。

最新研究から、腸内環境と生活習慣の複雑な関係を考えてみたい。


01|24週間、地中海食と運動を続けると何が起こるのか。

THE 24-WEEK EXPERIMENT.

今回の研究は、英国で行われた「MedEx-UK」というランダム化比較試験のデータを用いたものだ。

研究チームは、地中海食と身体活動が腸内細菌に与える影響を調べた。

参加者は、次の3つのグループに分けられた。

  1. 普段の生活を基本的に維持するグループ
  2. 地中海食を取り入れるグループ
  3. 地中海食に加えて、身体活動を増やすことを目指すグループ

介入期間は24週間。およそ6か月だ。

地中海食のグループでは、食事内容を改善するための個別支援などが提供された。

研究では、腸内細菌の構成に加え、短鎖脂肪酸、胆汁酸、その他の便中代謝物を分析した。

短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維などを発酵させることで生み出す物質のこと。

腸の上皮細胞のエネルギー源となるほか、代謝や免疫機能との関係が研究されている。

今回の解析には93人のデータが使われ、このうち介入前後の便サンプルが揃った47人について、主な変化が検証された。

研究チームが知りたかったのは、健康的な食事と運動によって、腸内細菌の種類や働きにどこまで変化が起こるのかということだった。

02|食生活は改善した。それでも腸内細菌は大きく変わらなかった。

THE UNEXPECTED FINDING.

まず、地中海食への取り組み自体は成功していた。

研究では、地中海食への適合度を示すスコアが、対照群と比較して有意に改善した。

つまり、参加者は実際に食生活を変えていたことになる。

ところが、腸内細菌の分析では意外な結果が出た。

腸内細菌の多様性を表す指標に、グループ間で有意な違いは確認されなかった。

さらに、腸内細菌全体の構成や、特定の細菌の相対的な存在量についても、明確な変化は認められなかった。

便中の短鎖脂肪酸、胆汁酸、その他の代謝物についても同様だった。

では、運動を組み合わせれば違いが出たのだろうか。

今回の研究では、地中海食のみのグループと、地中海食に身体活動の促進を加えたグループの間にも、有意な差は確認されなかった。

ただし、重要な点がある。

身体活動を増やす介入を受けたグループでも、実際の身体活動量は他のグループと比べて統計的に有意には増えていなかった。

そのため、今回の結果だけで「運動を追加しても腸内環境には意味がない」と判断することはできない。

確認されたのは、今回の条件では、食事改善や運動促進による一貫した腸内細菌の変化を検出できなかったということだ。

健康的な生活習慣と腸内環境の関係は、想像以上に複雑なのかもしれない。

03|なぜ腸内細菌は、思ったほど変わらなかったのか。

WHY THE MICROBIOME RESISTS CHANGE.

研究チームは、結果の背景としていくつかの可能性を挙げている。

ひとつは、腸内細菌の個人差だ。

同じ地中海食を取り入れても、もともとの腸内細菌の構成は人によって異なる。

普段の食生活、薬の使用、生活環境、体質なども違う。

そのため、同じ食事をしても、腸内細菌の反応が全員同じになるとは限らない。

ある人では特定の細菌が増えても、別の人ではほとんど変化しない可能性がある。

こうした個人差が大きいと、グループ全体の平均では変化が見えにくくなる。

もうひとつは、腸内細菌の安定性だ。

腸内細菌は、食事の変化によって一時的に構成が変わることがある。

しかし、時間の経過とともに、もとの状態に近づく場合もある。

今回の研究では、便サンプルを介入前と24週間後に採取していた。

そのため、途中で一時的な変化が起こっていたとしても、捉えられなかった可能性がある。

また、腸内細菌の分析方法にも限界がある。

今回使用された16S rRNA遺伝子解析では、腸内細菌の構成を調べられる一方、細菌が持つ遺伝子や具体的な代謝機能まで詳しく把握するには限界がある。

腸内細菌の種類が大きく変わらなくても、その働きが変化している可能性は残されている。

今回の結果は、腸内環境の変化を測定すること自体の難しさも示している。

04|一方、1年間の研究では腸内細菌に変化が見られていた。

WHAT LONGER STUDIES REVEAL.

2024年に『American Journal of Clinical Nutrition』で発表された研究では、異なる結果が報告されている。

対象となったのは、心血管疾患のリスクが高い55〜75歳の成人400人。

研究チームは、カロリーを抑えた地中海食と身体活動の促進を組み合わせた生活習慣改善を、1年間にわたって検証した。

比較対象は、摂取カロリーを特に制限しない地中海食のグループだった。

その結果、生活習慣改善を行ったグループでは、より大きな体重減少と、複数の心血管リスク指標の改善が見られた。

さらに、腸内細菌の多様性が増加し、一部の細菌の存在量にも変化が認められた。

便中の代謝物にも変化があり、その一部は心血管リスク指標の変化と関連していた。

では、2026年の研究と何が違ったのだろうか。

まず、介入期間が異なる。

2026年の研究は24週間だったのに対し、2024年の研究は1年間だった。

また、2024年の研究では、カロリー制限や体重減少も介入の重要な要素だった。

参加者の年齢や健康状態、研究規模、分析方法も異なっている。

つまり、2つの研究は、完全に同じ条件を比較したものではない。

長く続ければ必ず腸内細菌が改善する、という結論も出せない。

しかし、食事内容だけでなく、体重の変化や身体活動、生活習慣全体が腸内環境に関係している可能性はある。

腸内環境を考えるときには、ひとつの食品や習慣だけではなく、生活全体を見る必要があるのかもしれない。

05|腸内細菌が変わらなくても、地中海食と運動には意味がある。

BEYOND THE GUT MICROBIOME.

ここまでの研究を読むと、ひとつの疑問が浮かぶ。

腸内細菌が変わらないのであれば、地中海食を続ける意味はあるのだろうか。

答えは、腸内細菌だけで健康を評価するべきではない、ということだ。

地中海食は、野菜、果物、豆類、全粒穀物、ナッツ、魚、オリーブオイルなどを中心とした食事パターンだ。

これまでの研究では、心血管疾患や代謝の健康との関係が数多く調べられてきた。

また、定期的な身体活動には、筋力、心肺機能、血糖調節、睡眠、精神的な健康など、さまざまな面での利点がある。

これらの健康効果が、すべて腸内細菌の変化によって説明されるわけではない。

腸内細菌は、健康に関わる多くの要素のひとつにすぎない。

そして、腸内細菌の多様性が高ければ、必ず健康状態が良いというわけでもない。

今回の2026年研究は、地中海食や運動の価値を否定するものではない。

むしろ、健康的な生活習慣の効果を、腸内細菌というひとつの指標だけで判断することの難しさを教えてくれる。

日常生活では、特定の腸内細菌を増やすことだけを目標にする必要はない。

野菜や豆類、果物などから多様な食物繊維を摂る。

魚やナッツを取り入れ、脂質の質を意識する。

無理のない範囲で筋力トレーニングや有酸素運動を続ける。

十分な睡眠を確保する。

こうした基本的な生活習慣を継続することが、健康づくりの土台になる。


腸内環境は、健康習慣のすべてを映す鏡ではない。

2026年のMedEx-UK研究では、地中海食を24週間取り入れても、腸内細菌や便中代謝物に明確な変化は確認されなかった。

一方、2024年の1年間の研究では、地中海食と身体活動を中心とした生活習慣改善によって、腸内細菌の多様性や代謝物に変化が認められた。

この違いは、研究結果が矛盾しているというよりも、腸内環境が多くの要因に左右される複雑な仕組みであることを示している。

食事を変えれば、誰もが同じように腸内細菌が変化するわけではない。

運動を始めれば、必ず特定の菌が増えるわけでもない。

そして、腸内細菌が変わらなかったからといって、健康への取り組みが無駄になるわけではない。

健康をつくるのは、特定の腸内細菌ではなく、毎日の生活習慣の積み重ねだ。

地中海食と運動は、そのための有力な選択肢であり続ける。

腸内環境の研究が進むことで、将来は一人ひとりの身体に合った食事や運動の選び方も、さらに明らかになっていくかもしれない。


REFERENCES|参考文献・出典

1. Shannon OM, et al. (2026).
Impact of a Mediterranean diet and physical activity intervention on the gut microbiome and faecal metabolites: findings from the MedEx-UK randomised controlled trial.
British Journal of Nutrition. Published online September 29, 2026.
https://doi.org/10.1017/S0007114526108551

2. PREDIMED-Plus研究グループ(2024)
Effect of 1-year lifestyle intervention with energy-reduced Mediterranean diet and physical activity promotion on the gut metabolome and microbiota: a randomized clinical trial.
American Journal of Clinical Nutrition.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002916524001679

研究についての補足

本記事で紹介した2026年の研究では、介入前後の便サンプルが揃った47人を中心に解析が行われました。身体活動量にはグループ間で有意な差がなく、腸内細菌への運動の独立した効果を十分に検証できたわけではありません。研究結果は地中海食や運動の健康効果全般を否定するものではありません。

本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断・治療に代わるものではありません。研究結果には限界や個人差があります。編集方針・訂正方針

ABOUT THE AUTHOR

岸本 淳史

WELLNESS EDIT JAPAN 代表・編集責任者 / NSCA-CPT

株式会社Karada Works代表取締役。NSCA認定パーソナルトレーナー(NSCA-CPT)。2017年よりパーソナルジム運営に携わり、運動指導、パーソナルジム・整骨院の経営支援、ドライヘッドスパ専門店La HEADの経営など、ウェルネス分野の事業に従事。

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